iPod等への課金見送りと、ダウンロード違法化

世の中のニュース的には「ふーん」だろうけど、おそらくネットでは話題沸騰しているだろうネタがこれ。

前半のiPod課金とは、iPodの販売価格に私的録音録画補償金を上乗せするという話。象徴的にiPodと言われているが、これは一時期携帯カセットプレイヤーが軒並み「Walkman」と呼称されたのと同じことで、別にiPodだけを槍玉に挙げているわけではありません*1

後半のダウンロードの違法化は、現在はダウンロードすること自体は罪には問われず、アップロードした者が著作権者の権利を侵害する違法行為である、ということになっているのを、そもそもダウンロードしたら犯罪だ、と法律を変えるという話です。

これらは本来はまったく別口の話ですが、過去の経緯からダビング10も含めてセットで語られてきたものです。今回、iPod等への課金については先送りしたことで、とりあえずダウンロードを違法化してしまえ、ということにしたようです。

ダウンロード違法化については、知らずにダウンロードしても罪に問われかねない*2とか、ダウンロードできなくなれば買うというわけではない、という反対意見がパブリックコメントで多数寄せられていますが、それについては一切考慮することなく、文化庁は違法化で押し切ろうとしています。いったい、何のためのパブリックコメントなのでしょうか*3

まあ、実際にはダウンロード違法を著作権法に盛り込むこと自体は、そんな事態にはあまり結びつかないだろうとは思っています。ただ、ここでこういう権利者側に非常に偏った法改正を認めると、今後もなし崩し的に色々な法律が権利者団体、国家権力、大企業に有利なように少しずつ少しずつ変えられてゆく不安があるだけです。一企業の論理で著作権法が「文化の振興」という目的から外れていった歴史がそれを物語っています。今や著作権法は一部の大企業や権利管理団体の利益確保のための道具と成り下がっています。

ただまあ、権利者団体が本当に怖いのは、違法ダウンロードではないのではないかと思っています。彼らだってバカばっかりではないはずなので、実は違法ダウンロードと売り上げがそんなにきれいな反比例をしないことなどはとうに分かっているはずです。彼らが一番怖いのは、権利者と消費者が、権利者団体を介さずに直接繋がることです。権利者団体は販売会社や放送局から集めた著作権使用料、各種メデイアの私的録音録画補償金を、「実績」に基づいて権利者に再配分することができるわけですが、そこには確実に権益が発生します。ところが、権利者や制作会社が直接消費者と繋がってしまうと、そこに権利者団体が関与する余地が無くなるか、無くならないにしてもパイが小さくなってしまいます。権利者団体としては、権利者と消費者の対立を煽って揉めている状況は実はおいしいわけです。あとはもう、ダウンロード違法化が通れば、好きなだけ金のなる木が手に入ったようなものです。

調達に対する透明性や、原材料の追跡性が問われる現代において、権利者団体はその配分の根拠となる数字について一切公表していません。それは何故なのでしょう? もちろん、把握しきれないという部分もあるのは確かですが、それならばこそ、どういう基準で再配分しているのかを明確にすることが必要ではないでしょうか。それを明らかにするという要求は、権利者団体に管理されている権利者にも、制作会社や放送局にも、利害関係があるのでできません。それができるのは消費者だけです。

そもそも、ダウンロード違法化で消費者がまたCD等を買うようになって、その収益が権利者を豊かにする、というのは権利者団体の妄想です。例えばある曲が1万枚売れるはずなのに千枚しか売れていないが、それは違法ダウンロードのせいである、と彼らは主張しますが、株か先物投資か不動産の投機などで、値上がりする見込みだったのに社会状況の変化で値上がりしなかった、と言ってるのと変わりません。例えば分譲マンションの転売で儲けようとして大損した人がいると思いますが、権利者団体の理屈を持ち込むならば、こんなところでしょうか。

  • 借家や賃貸マンション等の賃貸物件に住んでいる人がいるが、それは本来ならば分譲マンションが売れるはずだった機会を奪っている。一定額以上の収入がある人は賃貸物件を買うことを違法化すれば、分譲マンションも売れるようになる。高所得の人だけを対象とするので、低所得の人には影響はない。
  • あるいは、賃貸物件には私的賃貸補償金を加算し、その収益を分譲物件の権利者に分け与えるべきだ。薄く広く課金するので、問題はない。

それはむちゃくちゃだ、とか、そもそも比較する意味がない、とか言われる*4でしょうけど、言ってることに大差はないんじゃないの?と思うのは自分だけでしょうか。

*1:そういえば、商標権法上、この様に普通名詞化されてしまうと商標としての価値が無くなってしまいます。従って、商標権者は自社の登録商法をはっきりと「これはうちの商標である」と主張する必要があります。マニュアルやカタログなどに細かく「○○は△△社の登録商標です」と書いてあるのは、そのためです。よって、Apple社はマスコミなどに強く申し入れをすべきですし、そもそもマスコミは「iPod課金」等と言う表現は使うべきではありません。本文などには「iPodなど」と書いてあることが多いですが、見出しだけでも広まるし、新聞社は見出しも著作物と主張しているのですから、やはり書くべきではないですね。

*2:文化庁や権利者団体はそんなことはない、と言い張っています。この様なものはすぐにエスカレートしていくのは目に見えています。最初は「多くの国民にはまったく問題がない」とか「ごく一部の無法者を取り締まるため」と言っていたものがエスカレートしていった歴史はそこら中に転がっています。権利者を信頼して欲しいなどのコメントを出したりしていますが、そもそも消費者を信用しない権利者団体が言ってよい台詞ではないでしょう。

*3:文化庁や権利者団体は、一応考慮したとは言っていますが、どういう意見についてどのように考慮したのか、という話はついぞ聞いたことがありません。ただ、直ちに消費者の不利益になるようなことはない、と主張しているだけです。業績が回復しなkれば、まだまだ違法ダウンロードで損害を受けている、と主張して、どんどん摘発対象を拡大していくのでしょう。そして、この不況下ではますます業績は悪化するのは当然です。違法ダウンロードの検証責任はダウンロード側にあるから大丈夫、等と言ったところで、知らずにもらったファイルが違法ダウンロードファイルだったら、あなたのところには違法ダウンロードファイルがあります。著作者の権利侵害です、と一方的に言われかねないのです。そう言われるかどうかは、彼らの胸先三寸です。大げさに騒ぎ立てていると言われればそれまでですが、過去多くの人が「そんなことにはならない」とたかをくくっていて、足下をすくわれてきました。

*4:特に、賃貸物件を借りるのと、違法にアップロードされた者をダウンロードするのは全然違う、とか。